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2009年12月 月次レポート(石田聖子 イタリア)

月次レポート
                         (2009年12月、博士後期課程 石田聖子)(派遣先:ボローニャ大学 [イタリア])

 大学の前期講義第二部が順次終了する今月は、先月より引き続き作業を続けている『笑いと創造(第六集)』(ハワード?ヒベット、文学と笑い研究会編、勉誠出版)に投稿するための論文作成に専念した。論文は、二〇世紀イタリアを代表する笑いの文学の作家のひとりとされるチェーザレ?ザヴァッティーニの初期文学作品を分析の対象とするもので、特に、ザヴァッティーニが、その長く多岐に渡った表現活動の中で、一貫してこだわりつづけた一人称の使用の理由を笑いとの関連で考察する試みである。月末には、論文をひと通り書き終え、来月の提出に向け、現在も推敲作業をつづけている。
  時宜良く、今年はザヴァッティーニ没後20周年にあたるため、11月末より来月にかけて、イタリア各地でザヴァッティーニ関連展覧会が複数開催されている。そのうちで派遣者が今月中に足を運んだ展覧会の概要を以下に記しておく。
―――「Cesare Zavattini. Una vita tra realta e utopia(チェーザレ?ザヴァッティーニ:現実とユートピアのあわいの生)」(会場:Gabinetto Vieusseux、Archivio Contemporaneo [フィレンツェ]):在レッジョ?エミーリアのArchivio Zavattini(ザヴァッティーニ資料館)が保存するザヴァッティーニの手稿、初版本、書簡、ザヴァッティーニが脚本を手掛けた映画のパンフレット、絵画作品、その他関連資料の数々が展示された。存在こそ長く知っていたものの、この機会に初めて現物を目にしたものも多く、感銘を受けた。数ある展示資料のなかでもとりわけ強く印象に残ったのは手稿である。その多くには、ザヴァッティーニの手による記号や図を大胆に用いた修正が施されており、ザヴァッティーニの思考の展開の内情がうかがえ、事実、近年のザヴァッティーニ研究が明るみに出している当作家の思考の視覚的側面を裏付けるものであると考えられる。
―――「Zavattini contro la terra: il fumetto tra letteratura e cinema(ザヴァッティーニV.S.地球:文学と映画のあいだのコミック)」(会場:Spazio Gerra [レッジョ?エミーリア]):ザヴァッティーニは、ジャーナリズム、文学、映画、絵画と多領域にまたがる表現活動を遂行した人物であり、今日に至るまでそれら各分野における活動の評価が各領域において進んでいるが、本展覧会は、それら活動のなかでも、これまで最も注目を浴びることの少なかったザヴァッティーニのコミックの原作者としての功績に焦点をあて、関連資料を一挙に展示するという大変珍しい試みであった。派遣者においてもザヴァッティーニの当側面に関する知識は浅く、関連資料を目にする機会もそれまでに得なかったが、ザヴァッティーニの文学と映画における活動を繋ぐものとしてのコミックの存在は、ザヴァッティーニの同二領域を博士論文の考察の対象とする派遣者にとりきわめて示唆的であった。
―――「Racconti a colori: Cesare Zavattini pittore(色とりどりの物語:画家ザヴァッティーニ)」(会場:Fondazione del Monte [ボローニャ]):ザヴァッティーニの絵画作品50点が一堂に会した本展もまた実に興味深いものであった。画家としてはあくまでもアマチュアを自称しつづけたザヴァッティーニの絵画領域における活動はここ数年とみに関心を集める分野であり、画集も複数発行されており、派遣者もすでに入手している。しかしながら、これほどに多くの絵画作品に囲まれた経験は初めてであり、特に、画集では充分に確認できなかった立体感と色遣い(金、銀が多用されていることには画集を見る限りでは気付かなかった)を実際に確認できたことは大きな収穫であった。
  いずれの展覧会も、ザヴァッティーニの多面的な活動を包括的に捉える視点をもつもので、同様の視点を備えた研究活動を望む派遣者にとって大変良い刺激となった。そうした視点は、派遣者が同作家を対象とした卒業論文執筆時には主流ではなかったことから、新しい潮流を感じさせるものでもあった。来月にも、ザヴァッティーニに関するより大規模な展覧会、及び、シンポジウムの開催が予定されており、それらも期待できるものと考えている。
  今月中にはまた、本学指導教員の和田忠彦教授がボローニャにいらっしゃり、研究活動から生活にまで及ぶ幅広いご指導と励ましをくださった。特に、派遣先大学指導教員のマンゾリ教授同席のもと、論文作成方法について具体的に指示していただいたことは、試みてはいるもののいまだ確固とした方向性を見出しかねているために滞りがちであった派遣者の博士論文作成状況に風穴を開け、年が改まるタイミングとも併せ、派遣者を大いに鼓舞するものとなった。
  ところで、今月半ばには、欧州を襲った寒波の影響で、「きみよ知るや南の国」と謳われたイタリアに位置するボローニャでも気温が零下10度を下回る(湿度の高さで知られるボローニャでは体感温度はさらにそれを下回る)という想像を絶する寒さに見舞われた。温暖な気候のもとで育った派遣者にとってはまさに危機的な状況であったが、数日後には、零度でも暖かく感じるようになり、人体に備わる適応能力の偉大さを体験的に知ることとなった。この一件は、笑いが身体に対してもつホメオスタシス効果に関心のある派遣者にとっては特に得難い経験であった。

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展覧会「Cesare Zavattini. Una vita tra realta e utopia」(フィレンツェ)会場

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展覧会「Cesare Zavattini. Una vita tra realta e utopia」(フィレンツェ)で展示された手稿

 

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