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2012年10月 月次レポート(郭恬 シンガポール)

短期派遣AA月末報告書(10月)
 報告者:郭恬 博士後期課程国際社会専攻
 派遣先:シンガポール国立大学(NUS)   
 
 先月は日本研究学科において全体な授業見学を行ったが、今月は日本語コースの授業見学を2度行い、他はインタビューを中心に調査を進めた。
 インタビューは半構造式を用いて日本研究学科に在籍する中国系の3年生5名を対象に、一人あたり30分程度で個別に行った。主に学習動機、卒業後の進路、授業に対する感想という3つの項目について話を聞いたが、昨年中国で行った学生へのインタビューと比較すると、幾つかの相違点が浮かび上がった。

 日本語を学習する動機について、中国の学生は「英語を志望したが、点数が足りず、日本語学科に振り分けられた」と答えた者が非常に多かった。それは中国の大学進学システムによるもので、入試の点数によって、自身が希望した専攻でなく他の専攻に振り分けられることが多くあるため、日本や日本語にまったく興味のない学生でも日本語学科に入学する事例が少なくないからである。それに対してNUSでは、学生はまず学部を選択して1年次に広く浅く各学科の基礎レベルの授業を受講し、大抵は2年生に進級する際に、自身の興味や成績などから総合的に判断して専攻を決定するシステムとなっている。そのため、今回のNUSでのインタビューでは、学習動機について全員が「興味があるから」と答え、日本の社会と文化に関する学習に対して高いモチベーションが見られた。

 また、卒業後の進路については、中国の学生からは「日系企業での就職」、「通訳」、「日本語の教師」などが多く挙げられたが、NUSの学生からは全員「別に日本と関係のない仕事でもいい」という答えが返ってきた。その理由を尋ねると、授業の中で日本企業における年功序列や男女差別について知り、抵抗感を覚えたとのことであった。せっかく専門知識を身に着けたのにもったいなくないのかとの問いには、「大学では自分の好きなものを学び、将来は別にほかの分野の仕事でもいい。」「言語はただの生活スキル、旅行などで使えれば十分、仕事にしたくない。」との答えが返ってきた。大学院進学については、対象者全員が「考えていない」とのことであった。中には「大学院に行くなら、欧米の大学院に行きたい。英語が第一言語ですから」と語る学生もおり、シンガポールで日本研究を専攻している学生にとって、日本の大学院はあまり魅力がないようであった。一方、昨年インタビューした中国の学生はほとんどが「機会があったら、日本の大学院に進学したい」と答えており、両社会での異なる学歴志向、学生の英語能力の差がこうした相違の背景となっていると考えられる。

 さらに、尖閣諸島問題で日中関係が緊張している時期でもあったので、学生の対日感情についても尋ねてみた。シンガポールは中国と同じく、日本に侵略された歴史があり、また人口の70%は華人であるが、この質問に対しては全員が「歴史問題による日本に対する嫌悪感はまったくない」との答えであった。シンガポールでは社会背景やマスコミの日本に対する傾向が中国とは大きく異なり、それらが学生に対して大きな影響を与えていることが推測される。

 また、筆者の現地での受け入れ教員であり、前学科長でもあるThang教授と、日本語コースの泉教授からも、それぞれ1時間ずつお話を伺うことができた。日本語と日本研究の二分化についての考え方や、現場での体験談をいろいろと伺ったたことで、日本事情教育を検討するには、その背景となる社会事情と教育制度を考慮に入れなければならないと改めて認識するに至り、今後の研究に大いに役立つものとなった。

 最後に、今回貴重な調査の機会を与えて下さったITP-AAプログラムのスタッフの方々と教職員の先生方、そして、この二ヶ月間、様々な形で調査にご協力頂いた派遣先の皆様に改めて深く感謝の意を表します。

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