2009年12月 月次レポート(及川 茜 シンガポール)
ITP-AA 月次レポート(2009年12月)
博士後期課程 及川 茜
シンガポール国立大学(2009.8-2010.2)
11月初旬からクリスマス気分を煽っていたシンガポールの街だが、ようやく平常に戻りつつある。こちらでは年越しといえばやはり春節が中心らしく、大晦日のカウントダウンなどのイベントはあったものの、年が明けても日本のような正月気分はほとんど感じられない。大晦日の夜はシンガポールのテレビ局にチャンネルを合わせてみたものの、これといった番組も無く、結局ケーブルテレビで台湾の年越しライブの中継を流しつつ、年内に積み残した作業をするうちに年が明けてしまった。
シンガポール国立大学(NUS)のセメスターは12月で終わり、1月の二週目から後期の授業が始まる。講義は各セメスターで完結し、成績評価がなされることになっている。外語大では、前期と後期で単位は別になっていても、授業の内容としては通年、学生も留学等の事情がない限り通年で出席するという講義が多かったが、NUSでは完全にセメスターを基準にしたプログラムになっているようである。これは毎週の教室でのLecture(時間は2時間から3時間と科目によって異なる)に加え、隔週でTutorial (輔導課)として演習(講義同様2乃至3時間)の時間が設けられているため、期間は半年だが実質上の授業時間はほぼ90分1コマの通年に相当するためであろう。演習に出席する際には、前もって指定の参考文献を読んで討論に備えることが条件となるため、真面目に準備すれば1科目あたりの学生の作業量は相当なものになる。さらに、期末試験とレポート(中文系では定められた形式に従い5千字以内で提出するよう義務づけられている)の両方が課せられる。私は指導をお願いしている容世誠先生の学部生対象の講義を聴講していたが、レポートの中間発表では学生はそれぞれのテーマに従い、卒業論文への取り組みさながらの熱意で準備しているようだった。また、テーマの選定から執筆上の問題に至るまで、各自が個別に研究室を訪れ、先生に指導を仰いでいるというのにも驚かされた。もっとも、卒業論文執筆はコースによっては卒業要件ではないらしく、書かない学生もレポートで論文執筆のエッセンスを学べるように授業が設計されているという側面もあろうか。いずれにせよ、先生から出される要求が高ければ高いほど、学生もいっそう熱心に課題に取り組むようである。
自分の論文に関しては、12月の休暇中は容先生がシンガポールを離れられたこともあり、11月に引き続き日本のものを中心に、周辺資料を読み進める作業を中心に行った。少しずつ論文の輪郭が見えてきたので、1月は先生に指導を仰ぎつつ、中国側の資料を絞り込み、残りの派遣期間で形にしたい。
また、今月はとうとう体調を崩してしまい、集中して作業に取り組めず、派遣期間の残りを数えつつやや焦りを覚えている。シンガポールの気候や食べ物にも特に問題を感じることもなく、自分ではむしろ東京より過ごしやすいと思っていたが、思わぬ落とし穴が過剰な冷房だった。今はまだ雨季にあたり、曇りの日が続くこともあり、最高気温30℃といってもそれほどの暑さは感じない。風のない東京の真夏よりははるかにしのぎやすく、室内では窓さえ開けておけばほとんど冷房の必要など無いほどである。しかし、私がシンガポールで最初に買った衣類は、日本で11月頃に着るようなニットのカーディガンであった。とにかく家から一歩外に出れば冷房との戦いである。冷房の程度については、例えばバスで、雨の日など下車した瞬間に眼鏡が曇るほどだ、といえば想像がつくだろうか。シンガポール人も同様に寒いと感じているようだが、特にエアコンの設定温度を上げるキャンペーンなどが行われている気配は無い。シングリッシュでご当地コントを配信するポッドキャスト、The mrbrown show でも、コペンハーゲン気候変動サミットにちなんだ回で皮肉っていた。エアコンの設定温度は常に18℃以下、オフィスにはセーターを常備しているという女性のネタに続き、「2010年のサミット開催地にはぜひシンガポールを!世界で一番涼しいビルで、快適に気候変動について話し合えますよ!」
こうした効き過ぎの冷房は大学とて例外ではない。8月の来星以来、ほぼ毎日図書館にこもって作業していたが、ここに来て毎日冷やされていたつけが出たようである。12月前半は頭痛や眩暈に悩まされ、数日の休養を余儀なくされた。知らず知らずの間に身体に負担がかかっていたのかもしれない。図書館に行く際は上着と膝掛けの防寒装備を欠かさず、日頃から冷たい物も口にしないように気をつけていたが、それでも閉館までいるとさすがに身体の芯が冷えていたようである。一度辞書を引き始めてしまうと、食事以外では席を離れにくくなるが、時間を決めて休憩時は建物の外に出るなどの対策を心がけたい。いくら自分では慣れたと思っていても、やはりここは外国、健康管理には万全の注意が必要であると反省させられた。