2008年10月 月次レポート(澤井志保 中国)
月次レポート (2008年10月)
博士後期課程 澤井志保
10月2日に香港に到着しました。大学側からは以前より、学内の大学院生用の寮は競争率が高く、フルタイム学生しか利用できないから宿泊施設は提供できないといわれていたので、知り合いを通じて、インドネシア人のムスリム女性の団体の事務所の一部屋を借りて、しばらく様子を見ながら家さがしをすることにしました。この事務所は、香港島の中でも中心部に位置するCauseway Bayの一等地にあり、香港そごうの裏、また私の調査地の中心であるビクトリア公園にも15分ほどで行ける、絶好のロケーションにありました。しかし、平日の木曜に香港に到着したので、事務所の主のインドネシア人女性たちは仕事で外出できないため、彼女らに会って挨拶するのは、彼女らの唯一の休日である日曜まで待たねばなりませんでした。そのため、金曜は香港中文大学のジェンダースタディーズプログラムを訪問し、こちらでの研究に必要な手続き(IDカード申請、院生室使用の方法について教わるなど)をすませました。香港中文大学は、香港島からMTRと電車を3回乗り継いでいく大学駅が最寄駅で、中国?シンセンにも近い、緑の多い丘の上の広大なキャンパスです。キャンパス中には無料バスが通っていて、学生寮も多いので、学内無料バスは夜10時まで操業しており、スポーツジムや食堂も9時ごろまで営業しています。また、院生室は24時間アクセスが可能ですし、学内施設もチャイニーズ?ニューイヤーを除いて年中無休という贅沢さにびっくりしました。
まもなく日曜になり、事務所の主であるインドネシア人女性たちにお会いできましたが、たまたまこの日がイスラム教徒の断食月明けのお祭りの日の直後の日曜であったため、この事務所は朝からものすごい人通りで、ゆっくり話しができる状態ではありませんでした。朝から通算で何百人というインドネシア人家事労働者女性が行き来して互いに年に一度の挨拶をし、加えて、この団体はファンドレイジングのためにインドネシア料理のケータリングをしているため、料理当番の女性たちがお祝いのためのナシ?トゥンパン(円錐形の形に盛られたご飯と料理の盛り合わせ)を作っており、3ベッドルームのフラットのリビングの床いっぱいに炊飯器を5つほどならべてご飯を炊き、手分けしながら手際よく料理が行われていました。このようにフラットがいささか混乱状態であったため、この日はとりまず長話をするのはあきらめ、ビクトリア公園で私の調査グループであるFLP香港のメンバーに会いに行くことにしました。
しかしビクトリア公園に行ってみると、こちらも事務所のフラットに負けない盛況ぶりでした。この公園は、日本で言えば上野公園とか、京都の岡崎公園のようなところなのですが、公園内のサッカーグラウンド、ベンチや地面はおろか、公園に入る手前の歩道橋まで、ものすごい数のインドネシア人女性がビニールシートをしいてピクニックのように、それぞれの料理や飲み物を広げて断食明けのお祝いをしていました。FLP香港のメンバーのミーティングポイントは、公園内の普段はあまり人目につかない場所にあるのですが、ここもものすごい人だかりで、せまい場所に5つほどのグループがひしめきあって座りながら、それぞれのごちそうをひろげて互いの集いを楽しんでいました。この日は台風が接近しており暴風雨だったのですが、インドネシア人女性たちは完全装備で、雨が降ればビニールシートをかぶったり傘をさしたり、また雨にぬれれば公園内のトイレで体を洗って服を着替えるなどして、非常に器用に快適さを維持していました。この日は特別な日であったせいか、夜8時を過ぎても人だかりが消えず、新参者の私などは座っているだけでへとへとになりましたが、インドネシア人女性たちは疲れを知らずおしゃべりと食事にいそしんでおり、彼女らのタフさと、日曜日という唯一の自由な時間(そしてレバラン<断食開けの祝日>)にかけた意気込みとエネルギーを感じました。
その次の週は、大学に出かけてジェンダースタディーズのプログラム長であるチョイ教授と、私の受け入れ教員であるナカノ教授にお会いして、今後の調査の方向その他についてアドバイスをいただきました。当初は、当大学の人類学科のタム教授に受け入れをお願いしたいと希望していたのですが、諸般の事情よりジェンダースタディーズのナカノ教授に受け入れ教員になっていただくことになりました。ジェンダースタディーズプログラムでは、普通語?広東語?英語の3つで授業が行われているため、英語の授業に出てみるとよいと言われ、2つの授業を聴講させていただいています。基本的に、香港のインドネシア人女性はほとんどが家事労働者であるため、日曜以外は彼女らに時間を割いてもらうことができません。逆にいえば、日曜にすべてのイベントが同時進行的に行われるため、時間の割り振りに非常に苦労します。平日は、メディア調査や、在香港インドネシア領事館や移民労働者団体等へのインタビューにあてようと思っていますが、こちらに来てから新しく気づいた論点などもあり、調査計画の微調整を考えつつ、様子をみている状況です。