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1. 大学の概要

 本学は単科大学であるが、外国語学部と大学院地域文化研究科において日本を含む世界諸地域の言語?文化?社会についてさまざまな学問分野の専門家が学際的に協働し教育?研究にあたっている。 本学にはまた全国共同利用研究所であるアジア?アフリカ言語文化研究所ならびに留学生予備教育の拠点である留学生日本語教育センターが附置され、学部?大学院教育に協力している。

 学部は7課程26専攻に分かれており、最初の2年間は、集中的な言語運用の訓練(専攻語教育)と、地域および専門領域の基礎教育(地域基礎?専修基礎)、ならびに現代社会を生きていくのに不可欠な教養教育(総合科目)の教育を行う。後半の2年間では、言語?情報コース、総合文化コース、地域?国際コースの3コースからコースを選択し、身についた高度な言語運用能力を活かした専門的教育を行い、世界諸地域の言語?文化?社会についての深い知識、グローバルな視点を身につける。学生は、世界各国の留学生とともに、国際性豊かなキャンパスで日常生活を送っている。


2. 本取組の概要

 本プログラムは、東京外国語大学が全学レベルで実施している日本に関する国際教養教育プログラムである。本学では、世界の「言語?文化?地域」に関する専門的な教育を実施しているが、世界で活躍する人材に必要な基礎力の中に、日本についての教養が不可欠であることはいうまでもない。さらに、日本について自ら問い、考える力の涵養も欠かすことができない。

 本学は、1995年以来、①教養科目の中での日本関連授業の充実、②日本関係専門科目の全学学生への開放を通じた専門的日本教育の実施、③留学生とともに学び、日本について自ら考える、英語による授業の開設(「IJ共学」)の3つの取組を行い、学生のもつ日本についての教養の充実と考察力の開発につとめてきた。本学は、本取組を、「「教養日本力」高度化推進プログラム」として引き続き実施し、それにより異文化理解?自文化理解に秀でた真の国際人の養成という本学の使命を果たしていきたい。


3. 本取組の実施プロセス

図1 プログラム実施の背景

 本学学生の日本についての教養の涵養を図る?教養日本力?高度化推進プログラムは、東京外国語大学が1995年以来、段階的に実施してきた全学的な国際教養教育プログラムである。

(1)本プログラムに取り組むに至った背景

 第1は、1995年以前の本学の教育体制への反省がある。1995年以前、本学では、○○語学科という名称のもと、ある特定の言語とその言語が用いられている地域に対する徹底した専門教育を行ってきた。そうした教育は確かに成果をあげてきたが、一面、世界の他の地域、そして何よりも足元の日本にたいする関心と理解が不足する傾向も生じてきた。まず自らの文化や社会への理解なしに異なる文化や社会を理解できるのだろうか、という問いと反省が、本プログラムの出発点にあった(図1参照)。

 第2に、日本社会の多言語?多文化化がある。グローバル化現象の進行や外国人労働者の受入などにともない、教育機関や自治体、国内企業では、英語に限らずさまざまな外国語を運用できる人材が求められている。本学の卒業生は、数多く、こうした要請にこたえ、活躍している。彼らが、変容しつつある現代社会についての知識を含め、日本に関する正しい理解を大学で身につけることは、きわめて重要なことだと考える。

 第3の背景としては、近年、在学中に留学する学生が増加し、海外生活を体験してきた彼らからのつよい要望があった。学生たちは、海外生活の中で、いかに自分たちが日本の歴史や文化?社会について知らなかったかを痛感し、キャンパスに戻ってくる。あらためて「日本」を意識し、より深く学びたいという意欲をもって帰ってくるのである。

 以上三つの背景から、本学ではすべての学生が、日本について深く学ぶことを可能にする、カリキュラム改革を実施した。その後も、段階的にプログラムを拡大し、今日では、本学に深く定着した特色ある教育プログラムとなっている。

(2)制度面での整備

  全学生の学科の枠をこえた履修の道を開くカリキュラム改革は1995年に実施された。この改革は、専門科目群を、地域横断的に?言語情報?「総合文化」「地域国際」の3分野に再編成し、3年次以後、ディスプリンを意識した履修を進めることを目的としたものである。こうして、言語?地域単位に所属する「○○課程○○語専攻」(たとえば、南?西アジア課程アラビア語専攻)を横軸に、そして3コース別のディスプリンを縦軸に、履修を進める体制が整えられた。

 この制度変更により、日本課程所属教員の開講する授業が全学の学生に開放され、専攻地域と日本との関わりを専門的に学ぶことが可能になった。本学日本課程は、日本語?日本文化?日本社会を専門とする11名の教員を擁し、主に、課程所属の外国人正規学生(1学年30名)?日本人学生(同15名)を対象に教育を行ってきた。しかし、1995年以後、他の課程?専攻に所属する学生も、同課程の教員のもとで専門的に日本を学び、日本と専攻地域との関係をテーマで卒業論文を執筆することが可能となった。

 全専攻の学生が日本をメジャーにする制度の一つとしては、2004年に設置された学部大学院一貫5年制教育の特化コースの中に設置された「日本語教育特化コース」をあげることもできる。本コースは、世界の諸言語を学ぶ学生に日本語教育の専門教育を施し、教育対象となる人々の言語を解する日本語教育者を養成していこうとするものである。

(2)教員配置での努力

 上記を実質的にささえているのは、外国語学部が行なってきた教員の配置である。日本を専門とする教員の人事を積極的にすすめ、日本課程だけでなく、社会系列?人文系列?特化系列に、社会学、教育学、政治学、比較文学、言語教育学などの立場から日本に関連する授業を行う専任教員を配置、日本教育?日本研究の強化をはかってきた。

(3) IJ(International & Japanese Students)共学の推進

 1998年、本学の交流協定校(61校)からの短期留学生を対象とするISEP-TUFSプログラムが開設され、専任の教員がコーディネーターとして採用?配置された。本プログラムでは、きめ細かい日本語教育を実施する一方、日本についての教養教育を英語で実施している。前述のように、同プログラムの授業は総合科目に位置づけられ、本学学生が短期留学生とともに学ぶ体制となっている。

 2006年には、学長室直属の教育改革室の中にIJ共学推進室が設けられ、本取組にかかわる全学的な支援体制が強化された。


4. 本取組の特性

(1)カリキュラム上の工夫

上記のように、1995年以来、外国語学部の教育課程制度改革を行いつつ、本プログラムにかかわる次の3つの取組を実施してきた(図2参照)。

①教養科目にあたる「総合科目」(1~4年次履修)における日本関連授業の充実
②「専修専門科目」(3~4年次履修)の制度設計の工夫と日本関連授業の充実
③交流協定校からの短期留学生と本学学生による、英語で行なわれる日本関連授業の共有

図2 「教養日本力」高度化推進の取組

 第1の取組は、主に1?2年次に履修する総合科目(10単位の選択必修科目)の中に、日本関連科目を配するよう工夫し、その充実を図ったことである。2007年度は半期74コマが開講されているが、そのうち半数以上が日本関連の授業である。学生は1年次から「日本語学入門」、「日本文化概論」、「外国人の日本観」などを受講することにより、世界を意識しつつ、日本語や日本社会への関心を持つようになる。 

  第2の取組は1995年のカリキュラム改革の結果として、3年次以降の専門教育の中で、すべての学生が日本関連の授業を履修できるようにしたことである。また、各コースの授業の中には、さまざまな日本関連科目が開設されており、学生は自分の専攻語にかかわらず、それらの日本関連科目を受講することができるようになっている。

  第3の取組みは、英語による日本関連の授業を開設したことである。これらの授業は、本来、60校をこえる海外の交流協定校から受け入れる短期留学生のために設けられたものだが、現在は、全学の学生に開かれている。これらの授業は、総合科目として位置づけられている。授業は、日本人学生と留学生とがともに学ぶ
IJ共学の理念に基づいた科目であり、日本に関するさまざまなテーマを活発に議論する場になっている。
本学は、これら3つの取組を有機的に結びつけることにより、全学学生の?教養日本力?向上に努め、成果をあげてきた。

(2)教育効果をあげるための工夫

 日本を学ぶ意義を学生が認識する契機として、?留学?が重要であることは前述のとおりである。学生たちは海外での暮らしの中で、周囲の人々に日本のことを聞かれても上手く説明できないもどかしさを感じ、あるいは外国の社会や文化に触れるなかで常識と思っていたことを見直す体験をし、日本を知る意欲をもつ。そうした体験を大学の中で再現すること、すなわち、学内で多くの留学生と触れ、ともに学び、留学生の感じる疑問に答える中で日本に対する関心を喚起するという方策が「IJ共学」である。

 日本課程所属の外国人正規学生は、他課程?専攻の学生同様、3つの履修コースのいずれかを選び、日本人学生とともに授業に参加する。彼らの存在により、日本関連授業は常に「IJ共学」となる。また、日本課程の留学生たちは、自らの出身国である朝鮮、中国、モンゴル等に関する授業を履修することも多く、そこでも日本人学生と机を並べて学んでいる。

  このように日本課程所属の外国人正規学生は、本学におけるIJ共学の主要な源泉の1つである。もう1つのIJ共学の主要な源泉は、交流協定校からの短期留学生である。毎年70~80名を受け入れ、その出身国も31ヵ国1地域と多様である。彼らの学ぶISEP-TUFSの授業は、前述のように、正規化され、全学学生に開放されている(写真1参照)。

写真1 IJ(International-Japanese)共学の授業風景

(3)学生の社会性を涵養するための工夫

 本取組が開発につとめる学生の社会性とは、世界や日本について偏った見方をせず、正しい知識をもとに、自ら考え、判断できる能力である。すなわち、日本や外国を一方通行に理解するのではなく、日本を足場にしっかりと立ち、そこから世界と足元の日本を観察することのできる?社会性?である。その涵養のため、本学における日本についての教育では、特に「世界の中の日本」を意識した内容が教授されている。「近代日本思想と東アジア」(専修専門科目)、「外国人の日本観」(総合科目)などをその例としてあげることができる。

  また、学びのプロセスに留学生との「IJ共学」を取り入れることで、日本への理解を日本人の視点のみで完結させることを許さない場をつくる工夫をしている。留学生との討論や共同作業を通じ、日本について自ら考え、発言できる能力の開発が可能になる。

(4)現代的課題への対処

 グローバル化が進行する現代において、日本の若者は、日本についての正しい知識と相対的な認識をもち、その裏づけをもって、世界の人々に日本を発信していかねばならない。特に、卒業後、世界と日本の架け橋となってさまざまな分野で活躍する本学学生のこの課題に対する責務は大きい。たんに流暢な外国語を操るだけでなく、彼らが、日本についての正しい自己認識をもち、それをふまえた行動、発言をすることは、日本が世界の人々から尊敬を得るためにも重要だからである。本取組は、こうした日本の現代的課題に正面から答えるものである。


5. 本取組の組織性

(1)取組の意義?価値を構成員が共有するための工夫

 本取組は、外国語学部の基礎教育課程、専門教育課程の中に有機的に組み込まれている。日本関連授業の開講状況は『履修案内』や『シラバス』を通じ全学学生や教員に周知?共有されている。情報の共有を通じ、これらの授業の開講の意義?価値への理解も深まっている。

 また、留学生との「IJ共学」は、本学の全専攻組織の協力のもとに実施されている。専攻組織の教員は、交流協定校との日常的な交流の窓口になり、派遣されてきた留学生の指導教員として留学生の教育や日常生活の指導に関わる。留学生のチューターには、当該専攻の学生があたることが多い。専攻組織の教員や学生は、ISEP-TUFSの授業の外でも「IJ共学」を体験しており、それがもたらす教育上の効果への評価は共有されている。

(2)取組に対する教職員や学生の関与

 本取組で開講される総合科目?専修専門科目の授業は、すでに述べたように本学全学生が履修することができる。このため、参加学生は、各学年800人のほぼ全員である。また、ISEP-TUFS で開講される英語による日本関連授業も、全学生も開かれており、多くの日本人学生が履修している。実際に担当する教員も、日本課程の教員だけではなく、社会学や政治学のほか、教育学、比較文学、言語教育学などの諸分野から日本をフィールドとする多くの教員が関わっている。これらの教員の協力?連携により、本取組は実施されている。

(3)取組に対する学内の支援体制

 外国語学部運営委員会のもとに設置された「専修科目推進室?と?総合科目推進室?は、それぞれの科目群の中での日本関連授業の開講状況をチェックしその充実を図っている。全学的には、学長室直属の教育改革室の中に設けられたIJ共学推進室が、大学教育の国際化の一環として、日本人学生の?教養日本力?高度化推進のための方策を支援する体制を整えている。

 また、本学留学生日本語教育センターは、国費留学生への予備教育を本務とするが、ISEP-TUFSの教育に全面的に協力し、全学日本語プログラムの中に短期留学生を受け入れ、きめ細かな日本語教育を実施している。

以上のように、本取組は外国語学部を中心に、全学的な体制で組織的に実施されている。今後は、外国語学部に?教養日本力教育推進室?を設け、同室が中心となり、さらなる展開を担っていく(図3「取組の組織性」参照)。

図3  取組の組織性

6. 取組の有効性

 つぎに、本取組によって、どのような成果があがっているか、4つの面から検証する。第1に本プログラムの有効性は、プログラムの一環として開講されている日本関連の科目が、多くの受講者を集めていることに示されている。諸外国の言語や文化?社会を学んでいる学生たちは、これらの授業を通じ、相対化の視点を獲得できるようになっている。

  第2に学修面での効果としては、相対化の視点が定着することにより、対象とする地域への理解の深まりが観察される。また、日本と世界を視野にいれた卒業論文も増加している(図4参照)。


図4  取組の有効性
 

 第3に、プログラムの有効性は、それを生かした学生の積極的な社会活動によってもはかることができる。日本語や日本についての知識をいかし、留学生をサポートする「チューター」を希望する学生や、学内の国際交流サークルTOFSIAに参加する学生が増加している。外国人児童?生徒に対する教育支援のボランティア活動に参加する学生も年々増加し、現在、300名をこえる学生が参加している。そうした活動を通じて学生の社会性は著しく向上している。

  最後に、日本理解を深めることは、他国の文化を尊重する心も育てる。本学学生は、そのような教養を備えており、それが社会的に評価された結果、国際的な企業などへの好調な就職が実現している。また、多言語?多文化化する日本社会のさまざまな分野で求められる人材養成に寄与しているといえよう。


7. 今後の実施計画

 本取組は今後、(1)日本関係授業の更なる充実と体系化、(2)?教養日本力?教育実践モデル研究 の2方向での発展を図る(図5参照)。

図5  今後の実施計画

(1)日本関係授業の更なる充実と体系化

 「教養日本力」教育に関わる科目群をより充実させるとともに、本学における日本についてのカリキュラムをよりわかりやすく学生に提示する。学生の声も取りいれつつ、教養日本力コアカリキュラムを策定する。これを通じて、留学前の履修が望ましい授業、留学後に履修する授業などを選定し、個々の授業の役割や連関性を明確にしたい。また、海外から日本研究者を招聘し、ゲストスピーカーとしての授業への参加を求め、学生が「世界の中の日本」像を考える手がかりとなるように工夫する。

(2)「教養日本力」教育実践モデル研究

 従来の実践を基礎として、?日本について何を教えるか?について検討を進める。専門化し分化がすすんだ日本研究を統合し、経済、政治、社会、歴史、文化、言語等からバランスのとれた国際的視野にたった「教養日本力」教育実践モデルの開発を目標とする。その際には、海外の日本研究?日本教育拠点との交流?連携を深めていきたい。本学の交流協定校だけではなく、留学生を含む、多くの卒業生が世界各国の高等教育機関で日本語や日本文化等を教えているという状況をふまえ、各地域でどのような日本研究?日本教育を行っているか、交流をはかりつつ調査?研究する。さらに最終年には、国際シンポジウムも開催予定である。

 このような実践を通じて、外国研究の対象として日本がどのように教育?研究されているかを検討し、国内での日本教育にも、?世界からの目??世界の中の日本?の視点を取りいれたい。世界各国の日本研究?日本語教育拠点と強い結びつきをもつ本学でこそ、外から見た日本を意識した?教養としての日本?像をまとめることが可能である。成果は、モデルを実践する助けとなる教材を出版物(ブックレット)というかたちで公開し、社会的にも大いに貢献していきたいと考えている。