2019年度世界史セミナーのお知らせ 終了しました
東京外国語大学 夏期世界史セミナー ―世界史の最前線XI―
(海外事情研究所主催?高大連携事業)
2019年7月24日(水)?25日(木) 東京外国語大学府中キャンパス 研究講義棟227教室
お申し込みは、
http://ngc2068.tufs.ac.jp/igas/htdocs/
からお願い致します
プログラム(※今後の調整によって、多少、変更になる可能性もあります。)
7月24日(水)
9:00~9:30 受付
9:30~9:40 海外事情研究所所長挨拶(小川英文)
9:40~10:40 講義1 戦争は女性を国民化したか ―イタリアにおける第一次世界大戦―(小田原琳)
10:40~11:00 質疑応答
11:00~11:10 休憩
11:10~12:10 講義2 近世京都の非人(吉田ゆり子)
12:10~12:30 質疑応答
12:30~13:30 昼休み
13:30~14:30 講義3 中央アジア概念から世界史記述を考える(木村暁)
14:30~14:50 質疑応答
14:50~15:00 休憩
15:00~16:00 講義4 チェコスロヴァキア?ドイツ人の追放をめぐって ―異論派の「歴史家論争」―(篠原琢)
16:00~16:20 質疑応答
7月25日(木)
09:00~09:30 受付
09:30~10:30 講義5 教科書のなかのロシア(巽由樹子)
10:30~10:50 質疑応答
10:50~11:00 休憩
11:00~12:00 講義6 世界で2番目の社会主義国の実態 ―20世紀前半のモンゴル人の国家建設―(青木雅浩)
12:00~12:20 質疑応答
12:20~14:00 昼休み意見交換会?懇親会(学生会館ホール)
14:00~15:00 講義7 写真が語る1940年代初頭の仏領インドシナと日本 ―朝日新聞社所蔵写真から―(菊池陽子)
15:00~15:20 質疑応答
15:20~15:30 休憩
15:30~16:30 「世界史未履修」から10年後の高校世界史教育と地歴科目再編 (鈴木茂)
16:30~17:00 質疑応答
プログラムのPDF版はこちらです。
参加条件
日程 2019年7月24日(水)、25日(木)(2日間)
会場 東京外国語大学 府中キャンパス(東京都府中市朝日町 3-11-1)
西武多摩川線「多磨」駅より徒歩5分、又は京王線「飛田給」よりバス
対象
1.高等学校?予備校の世界史担当教員
2.世界史教育?研究に携わる出版関係者
3.教員免許取得を目指す本学の大学院生
(授業「世界史教育プログラム」の一環)
受付締切 2018年7月12日(金)
受講料 無料
懇親会 無料
応募方法
下記URLよりフォームにしたがってお申し込み(2018年7月12日(金)まで)
http://ngc2068.tufs.ac.jp/igas/htdocs/
なお、宿泊が必要な方は、事前に宿泊先を確保した上でお申し込みください。
講義概要
鈴木茂:「世界史未履修」から10年後の高校世界史教育と地歴科目再編
この報告では、科研費研究プロジェクト「高大連携による歴史教育の実践的研究」(基盤研究
B、研究代表者、金井光太朗、2015-2018年度)で実施した各種アンケートをもとに、そこから見
えてきた高等学校における歴史教育の現状を、「世界史」を中心に検証します。大学入試センター
試験が2019年度限りで廃止され、2020年度からは大学入学者共通テストが導入される一方、昨年3
月には新しい学習指導要領が発表され、2022年度から実施されます。この大きな歴史教育の転換
にあたり、2006年秋の「世界史未履修問題」に始まる歴史教育改革が高校現場でどのように実現
したのか、されなかったのか、学ぶ側と教える側双方の認識を交えて、検討したい。
吉田ゆり子:近世京都の非人
本報告では、中世京都の非人研究の進展に対して立ち遅れてきた近世京都における非人研究を、
非人と寺社との関係に注目することから進め、近世京都における非人の存在意義について考察し
てゆくことを目的とする。その際、洛中洛外の寺社にとって、日常的に必要不可欠な寺社境内地
の不浄物処理(キヨメ)や警察的機能(番)に焦点を当てる。主たる素材としては、大仏殿およ
び三十三間堂の境内地の非人小屋と、北野天満宮境内地、そして境内地の管理?運営において、
複数の社会集団が関わり合うことが明らかになる下鴨神社をとりあげる。
結論としては、大仏殿の場合、広大な境内地を安全に管理するために、境内地に集まってきた
乞食や茶屋を必要としたことから、幕府が境内から非人小屋や茶屋を撤去して門前に移転しよう
とした時、寺側は強く抵抗した。さらに移転費用を非人集団に与えるほど、大仏殿と非人集団に
は固有な相互依存関係が存在していた。こうした非人集団は、「悲田院」に統括されてゆくもの
の、その後も旧来からの寺社と門前非人集団との関係は継続していたことが確認できる。ただ
し、すべての寺社が大仏殿や北野天満宮のように、独自な関係を結んだ非人集団を抱えているわ
けではない。下鴨神社の場合には、一八世紀前期段階でも、旧来からの固有な非人集団の存在は
みられず、むしろ悲田院により選任された非人が「番非人」として出入りをしていることが確認さ
れる。むしろ、境内の「番人」を雇用する際も社領百姓が承認する人物を村側で人選しており、
また境内の不浄物の処理においても社領百姓が関与していたとみられるように、社領百姓が一七
世紀のいつの時点かで穢れた職務を悲田院配下の非人に委譲する過程が存在したものと推測され
る。
木村暁:中央アジア概念から世界史記述を考える
歴史はつねに時間と空間との関係性のなかで語られる。歴史記述、わけても世界史記述におい
て、時空間としての「地域」があまた言及されるのはこのためである。しかし個々の地域概念
は、かならずしもその意味的?機能的前提が十分にことわられたうえで用いられるとはかぎらな
い。それは高校世界史の教科書の記述にもあてはまるだろう。本報告では、中央アジアという地
域概念に注目し、史料上における用例を概観しながら、それがいかに設定されうるのか、また、
いかなる意味と機能をもちうるのかを検討する。中央アジア概念の出現と展開の経緯を追うこと
はそのじつ、ヨーロッパとアジアの歴史的相関性を跡づけることにほかならず、それはある意味で
はユーラシアの歴史地図の俯瞰とも軌を一にする。とりわけ18世紀以降、ヨーロッパ諸国がアジ
ア諸国に対して政治?軍事面で相対的優位を確立していくなかで、ヨーロッパ人はアジアにいかな
るまなざしを投げかけるようになったのだろうか。この問いへの回答も模索せねばなるまい。こ
うした作業を通じて、地域概念の構築性に光を照射するとともに、世界史記述の一般的特徴と課
題について考えることにしたい。
篠原琢:チェコスロヴァキア?ドイツ人の追放をめぐって:異論派の「歴史家論争」
第二次世界大戦末から戦後期にかけて、ポーランドの行政管轄下となったオーダー?ナイセ川以
東の旧ドイツ東方領(ポーランドの用語では「回復領Ziemie odzyskane」)、ソ連領となった東プ
ロイセン、再建されたチェコスロヴァキア、その他東欧地域からドイツ系住民が難民化して西方を
目指す、あるいは終戦直後の恣意的、暴力的な措置によって追放される、あるいはポツダム協定に
基づき、現地政府と連合国との合意にしたがって組織的に追放された。その数は、総計およそ
1500万人におよぶ。チェコスロヴァキアでは、戦前の人口約1500万人のうち、300万人以上のドイ
ツ系住民が追放され、多くの地域で人口構成は完全に断絶した。
大規模な住民移動?追放は、ナチ?ドイツによる苛烈な占領?社会改造の経験と、国際協定に
基づく戦後秩序形成の一環として正当化された。また歴史的発展の断絶は、きわめてフィクショナ
ルなナショナル?ヒストリーの連続性によって代償され(「数百年におよぶ民族闘争の勝
利」!)、ドイツ系住民の追放は、戦後長らく、歴史的?政治的に「解決済み」の問題とされた。
しかし、ダヌビウスを名乗る著者が、「チェコスロヴァキア?ドイツ人」の追放に対して、高度に
批判的な論文を発表したことをきっかけとして、1980年代、チェコスロヴァキアの亡命?異論派知
識人の間で、この問題をめぐる激しい論争が起こった。それは、戦後チェコスロヴァキア社会の
理解にかかわるものであったと同時に、19世紀に成立した「チェコ史」の構想の批判的再検討を
も意味していた。一方、1986年から87年にかけて、ドイツ連邦共和国でナチズムの過去をめぐって
戦わされた「歴史家論争Historikerstreit」での主要な論点は、ナチズム、ホロコーストの「比較可
能性」、「唯一絶対性」であったが、「ドイツ人の追放」を語ることは、常にナチズムの犯罪性
を相対化する機能を果たした。
論争から30年以上を経て、今日の目から見ると、これらの論争、および同時期にポーランドで
始まったホロコーストをめぐる議論は、第二次世界大戦とナチ?ドイツの占領政策、戦後秩序の
形成がもたらした「歴史の断絶」にどのように向き合い、断絶を経た国民社会をどのように構想
するのか、という論点を共有していたように思われる。また、当時、そのような用語は使われては
いなかったものの、近い過去をめぐる「集合的記憶」が、政治?文化の問題としてはじめて焦点
化した瞬間であった。今回は、そのような視点からチェコスロヴァキア異論派の「歴史家論争」
を整理し、1980年代における「記憶文化」の変容を論じるとともに、ドイツ系住民の「追放」を
めぐる現時点での研究史上の論点を提示する。
巽由樹子:教科書の中のロシア
大学1年生を対象としたロシア史の講義ではしばしば、「高校の世界史では断片的にしか聞いた
ことのなかったロシアについて、まとまった話を知ることができてよかった」という感想が寄せ
られる。世界の全域にわたってその歴史を叙述するという教科書の性格上、ある地域についての
記述が時代によって分散し、異なる章に掲載されるのは無理のないことだろう。しかし一方でそ
うした叙述が、見たこと、行ったことのない場所の過去について、学生たちが想像し、理解する
ことを困難にしているのもたしかである。今回のセミナーでは、18世紀から20世紀初頭のロシア
に焦点をあてて、いくつかのキーワードが実際にはどのようにつながっているのかについて、国内
外の研究上の議論を紹介しながら掘り下げていきたい。同時に、社会主義体制の崩壊以来、この
30年ほどの間にロシア史研究の理解が大きく変わっていることを示し、今後、教科書に新たに登
場するかもしれないキーワードを考える。
青木雅浩:「世界で2番目の社会主義国」の実態―20世紀前半のモンゴル人の国家建設とソ連
1924年に成立したモンゴル人民共和国は、世界史関連の多くの書籍において「世界で2番目の社
会主義国」、「(当時においては)ソ連以外の唯一の社会主義国」と表現されている。しかし、
このような表現は妥当なのであろうか?建国に至る過程でモンゴル人がソ連の支援を受けたこと
を理由に、この国を社会主義国家と見なしてよいのであろうか?そもそも、当時のモンゴル人政
治家達は本当に、社会主義国家への道を目指していたのであろうか?
1990年代以降、モンゴル国、ロシア連邦で開放された公文書史料により、モンゴル近現代史研
究は急速に発展した。このような公文書史料を利用した最新の研究成果においては、1924年の成
立当初のモンゴル人民共和国が単なる社会主義国扱いされることはほぼない。
本講義では、清朝崩壊以降展開されてきたモンゴル人の「統合」と「自立」を模索する運動が
モンゴル人民共和国の成立に至る過程を、近年の研究成果に基づいて講義する。そして、1920年代
前半の微妙な国際情勢の下において、ソ連の支援を受けながら進められたモンゴル人の国家建設
の実態を解説する。
小田原琳:戦争は女性を国民化したか ―イタリアにおける第一次世界大戦
20世紀の総力戦においては、あらゆる年齢?性別の国民が動員された。19世紀半ば以降、ヨー
ロッパでは女性参政権の獲得を中心とする諸要求を掲げて多数の女性団体が組織され、イタリア
も例外ではなかったが、これらのフェミニスト団体は総力戦体制のなかで従来の組織を基盤として
戦争遂行に協力する体制を形成した。女性たちの多くは福祉活動への参画に誘導され、権利要求
の根拠としての「市民としての価値」を、さまざまなかたちでの戦争協力を通じて示そうとした。
国民化の課題を抱えていたイタリアでは、第一次世界大戦が国民化の重要な契機となったと、長
らく歴史学のなかで語られ、女性の戦争協力もまたそうした文脈に位置づけられている。
しかし女性の戦争経験は銃後にとどまらない。戦場となった国境地域の女性たち、赤十字の看
護師たちなど、最前線を経験する女性たちもいた。こうした女性の多様な戦争経験と、その戦後
の帰結をたどると、戦争による「国民化」という議論の破綻がかいまみられる。たとえば、国家
への貢献を通じての権利獲得という、当時のフェミニスト女性たち自身が依拠した主張は、イタ
リアではほぼかなえられなかったし、前線での女性の悲惨な経験は顧みられることがなかった。
愛国主義の高まりは、戦争を国民的経験として語る枠組を構築しつつ、しかしすべての「国民」を
包摂はしなかったのである。
菊池陽子:「写真が語る1940年代初期の仏領インドシナと日本-朝日新聞社所蔵写真から-」
2006年に朝日新聞大阪本社で、戦前の中国や東南アジアを撮影した写真が「発見」された。通
称、富士倉庫資料と呼ばれる7万枚以上の写真群である(その中の約1万枚は「朝日新聞歴史写真
アーカイブ」『聞蔵Ⅱビジュアル』で閲覧可能?有料)。写真の多くは、戦場や占領地で朝日新
聞社特派員が撮影、あるいは通信社から配信された写真である。圧倒的に中国で撮影されたもの
が多いが、その中に、約5000枚、東南アジアで撮影された写真が含まれており、仏領インドシナ
(仏印)の写真は約900枚ある。
仏印の写真は、北部仏印進駐(1940年9月)、南部仏印進駐(1941年7月)、タイ?仏印国境紛
争(1940年11月~)と、日本が仏印に深く関与した出来事が起こった1940年代初期に集中してい
る。これらの写真からは、当時の特派員が仏印で何を見て、何を日本に伝えようとしたのかを垣
間見ることができる。さらに、仏印と日本との関係、日本の南進、当時の新聞の検閲について等
を考えてみたい。
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東京外国語大学 海外事情研究所
ifa@tufs.ac.jp
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